相続手続で自分が相続税の納税義務者とは気付きますか?

相続税の基礎
相続手続において、誰が相続税の納税義務者となるのか、その対象となる人や条件を解説するサムネイル画像。

財産を取得した人全員が納税義務者になる可能性があります。

原則として被相続人(※亡くなった人)から財産を取得した個人が納税義務者となります。法定相続人に限らず、遺言で財産を受け取った人や死亡保険金の受取人も含まれます。相続の手続は専門的で分かりにくく、大きな不安を感じると思います。しかし、要点をつかめば適切に進めることが可能です。自分が対象になるのか、順に確認していきましょう。

相続税の納税義務者となる対象者の範囲

被相続人(亡くなった人)から財産をもらった人が、基本的に相続税の納税義務者となります。法定相続人以外でも対象になるケースがあるため、しっかりと確認しておくことが大切。

遺産を受け継いだ法定相続人

民法で定められた配偶者や子供などが財産を相続した場合、納税の義務が生じます。配偶者は常に相続人となり、その他の親族には優先順位が存在。親族間で円満に遺産を分けられるよう、まずは誰が相続人になるのかを把握しましょう。

遺言で財産をもらった受遺者

遺言書によって法定相続人以外の人に財産を譲ることを遺贈と呼びます。この遺贈を受けた人(受遺者)も納税義務者に該当。特定の財産をもらう特定受遺者も、一定の割合でもらう包括受遺者も対象となります。

死因贈与で財産を取得した人

生前に「自分が死んだらこの財産を譲る」という契約を結ぶのが死因贈与です。この契約に基づいて財産を受け取った受贈者も、相続税の納税義務者として扱われます。この受け取りを拒否することは、原則として不可。

死亡保険金や死亡退職金の受取人

生命保険金や死亡退職金は、被相続人が亡くなったことをきっかけに支払われるお金です。これらは「みなし相続財産」と呼ばれ、相続税の計算に含める必要があります。受取人に指定された人は納税義務を負うことに。

生前贈与を受けていた特定納税義務者

相続時精算課税制度を利用して生前贈与を受けていた人は、遺産を相続しなくても相続税の対象になります。また、亡くなる前3年間(または7年間)の暦年贈与も加算の対象。過去の贈与状況を振り返ってみましょう。

💡 プロが教える!実務のワンポイント

一般的には「遺産をもらった人だけが対象」と言われますが、実務の現場では過去の生前贈与が発覚して納税義務が生じるケースが意外と多いです。税務調査のリスクを考えると、被相続人の過去の通帳履歴も確認しておくのが無難と言えるでしょう。編集部でも、専門家の紹介を通じてしっかりとした調査をおすすめしています。

課税される財産の範囲(国内・国外)

財産を受け取る人が日本国内に住んでいるか、海外に住んでいるかによって課税される財産の範囲が変わります。対象となる財産が国内のみか、世界中の財産になるかを見極めることが重要。

無制限納税義務者と制限納税義務者

日本と海外のすべての財産に課税されるのが無制限納税義務者です。一方で、日本国内の財産のみに課税されるのが制限納税義務者。以下の表に条件を整理しました。

課税範囲をまとめた表

以下の表は、相続時の住所や国籍による違いを簡潔にまとめたものです。

納税義務者の区分課税対象となる財産主な条件
居住無制限納税義務者国内と国外の全財産相続時に日本国内に住所がある
非居住無制限納税義務者国内と国外の全財産日本国籍があり10年以内に日本に住所があった等
制限納税義務者日本国内の財産のみ海外に住んでおり過去10年日本に住所がない等
特定納税義務者相続時精算課税の財産相続時精算課税制度を適用して贈与を受けた

令和3年改正による外国人の取扱い

就労系の在留資格で日本に住んでいた外国人が亡くなった場合、以前は居住期間が10年を超えると国外の財産も課税対象でした。しかし2021年の改正により、居住期間を問わず国外財産には課税されないルールに変更。

💡 プロが教える!実務のワンポイント

教科書的な回答は上記の通りですが、専門家の視点では海外居住者の判定は非常にシビア。当事務所では専門家の紹介を行っていますが、紹介先の過去の事例でも、生活の実態が日本にあると見なされて無制限納税義務者と判定されたケースがありました。海外生活が長くても油断は禁物です。

納税義務者でも相続税がかからないケース

相続税の納税義務者に該当しても、必ず税金を払うわけではありません。遺産の総額や特例の適用によって、税額がゼロになるケースがたくさん存在します。

正味の遺産額を計算する手順

遺産の合計額が基礎控除額を下回っていれば、相続税はかかりません。以下の手順で計算してみましょう。

  1. 預貯金や不動産などのプラスの財産をすべて洗い出す
  2. 借金や葬式費用などのマイナスの財産を差し引く
  3. 死亡保険金などのみなし相続財産と、生前贈与分を加算する
  4. 算出された正味の遺産額と、基礎控除額を比較する これで基礎控除額以下なら、税務署への申告手続も不要。

未成年者控除や障害者控除の適用

相続人が未成年者や障害者の場合、一定の金額を税額から差し引ける税額控除が存在。これらの控除を適用して相続税がゼロになれば、納税の必要はありません。控除しきれない分は、扶養義務者の税額から差し引くことも可能です。

相次相続控除による負担軽減

短期間に立て続けに不幸が起きることもあり、これを相次相続と呼びます。10年以内に続けて相続が発生した場合、前回の相続で払った税金の一部を今回の税額から差し引けるのが相次相続控除。重い税負担を軽くする救済措置です。

配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例

配偶者は1億6000万円または法定相続分まで税金がかからない特例があります。また、亡くなった人の自宅の土地の評価額を最大80%減額できる小規模宅地等の特例も強力な節税策。ただし、税額がゼロになっても申告手続は必須です。

💡 プロが教える!実務のワンポイント

配偶者の特例を使って税金がゼロになるからと、安心して申告を忘れてしまうケースが多発。実務の現場では、申告期限を過ぎて特例が使えなくなり、多額の税金を請求されて慌てるご遺族を何度も見てきました。手続が不安な場合は、当事務所で専門家の紹介が可能です。

注意が必要な連帯納付義務

相続税には連帯納付義務という厳しいルールがあります。同じ被相続人から財産をもらった人同士は、お互いの税金について連帯して責任を負わなければなりません。

他の相続人の未納分を負担するリスク

遺産をもらった相続人の一人が相続税を払わずに財産を使い込んでしまった場合、他の相続人に未納分の支払い義務が降りかかります。連絡が取れない親族がいる場合は特に注意が必要。親族間で揉めないよう、しっかり話し合っておくべきです。

💡 プロが教える!実務のワンポイント

「自分の分は払ったから関係ない」という理屈は、税務署には通用しません。実務の現場では、数年後に税務署から他の相続人の滞納分を請求され、トラブルに発展したケースが実際に存在。遺産分割の際に、全員の納税資金の確保まで確認することが円満な相続の秘訣と言えるでしょう。

法人等が納税義務者とみなされるケース

原則として相続税は個人にかかる税金ですが、租税回避を防ぐために例外が設けられています。法人が財産をもらった場合でも、個人とみなされて課税されるケースも存在。

人格のない社団や持分の定めのない法人

町内会や同窓会のような人格のない社団が遺贈を受けた場合、個人とみなされて相続税がかかります。また、一般社団法人などの持分の定めのない法人が財産を受け取り、親族の税負担を不当に減らしたと認められる場合も同様の扱いに。

その他の相続手続と納税義務者に関するFAQ

ここでは、相続手続や納税義務者に関して皆様からよく寄せられる疑問について、一問一答形式で分かりやすくお答えします。

Q1:相続税の申告は誰が代表して行うのですか?

相続税の申告書は、納税義務がある全員が連名で作成し、共同で提出するのが一般的です。ただし、どうしても足並みが揃わない場合は、各人が別々に申告書を提出することも可能。実務の現場では、別々に申告して内容が食い違い、税務調査を誘発するケースがあるので注意しましょう。

Q2:相続放棄をしたら納税義務はなくなりますか?

家庭裁判所で相続放棄の手続をすれば、初めから相続人ではなかったことになり、基本的に納税義務はなくなります。しかし、死亡保険金を受け取った場合はみなし相続財産となるため、相続放棄をしていても相続税の納税義務者になる点には気をつけてください。

Q3:制限納税義務者の場合、葬式費用は控除できますか?

日本国内の財産のみに課税される制限納税義務者の場合、被相続人の葬式費用を負担したとしても、相続税の計算上は控除することができません。また、差し引ける借金も日本国内の財産に関わるものに限定されます。これは見落としがちなポイント。

相続の問題は税理士に相談

相続税の納税義務の判定や海外資産の評価を自己判断で進めると、申告漏れによる多額のペナルティを課されるなど深刻な税務リスクを伴います。適正な申告を行うためにも、相続発生後は速やかに専門知識を持つ税理士へ相談することを強く推奨します。

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柏原 朋恵

監修者:税理士 柏原

商社での経理実務を経て、会計業界へ転身。税理士法人にて約20年にわたり、中小企業の決算・税務申告から、上場企業の連結納税、SPC業務まで幅広く従事。みつきコンサルティングではオーナー企業の事業承継や相続税・贈与税のアドバイスも提供。本記事では、長年の実務経験に基づき、内容の正確性と専門性を担保するため、専門家の視点から監修を行っている。(税理士登録番号:126165)