法定相続人以外に相続させたい場合にかかるのは贈与税ですか?

相続税の基礎

かかる税金は原則として贈与税ではなく相続税になります。

遺贈という形で法定相続人以外(内縁の配偶者、甥・姪、孫、お世話になった第三者など)へ財産を譲る場合、財産の移転が死亡を原因とするため、贈与税ではなく相続税の課税対象となります。しかし、相続税額が2割加算されたり、生命保険等の非課税枠が使えなかったりと、一般的な相続と比べて税負担が重くなる仕組みになっています。安全に財産を引き継ぐためには、生前の計画的な対策が求められるところでしょう。

法定相続人以外へ財産を譲る最も一般的な方法

被相続人(故人のこと)が自身の財産を特定の誰かに引き継がせたいと考えたとき、法律で定められた法定相続人以外の人へ財産を譲るには、遺言書による遺贈が最も確実で一般的な方法です。法的に有効な遺言書さえ準備しておけば、血縁関係がない第三者であっても財産を受け取ることが可能になります。

💡 プロが教える!実務のワンポイント

一般的には費用がかからない自筆証書遺言を手軽に作成する方が多いですが、実務の現場では形式の不備により遺言が無効になるケースが意外と少なくありません。当事務所の過去の事例でも、手続が途中で止まってしまうことがよくありました。確実性を高めるため、専門家を交えて公証役場で公正証書遺言を作成しておくことを強く推奨します。

遺贈には特定遺贈と包括遺贈の二種類がある

遺贈には大きく分けて二つの方法が存在します。特定の財産を指定して譲る特定遺贈と、財産の一定割合を指定して譲る包括遺贈。以下の表に両者の主な違いをまとめました。それぞれの特性を正しく理解し、ご自身の目的に合わせて適切な方法を選択してください。

項目包括遺贈特定遺贈
指定方法割合を指定(例:遺産の3分の1)財産を指定(例:A土地を譲る)
権利義務法定相続人と同じ(負債も引き継ぐ)特定の財産のみ(負債は引き継がない)
遺産分割協議参加が必要になる参加する必要はない
放棄の方法家庭裁判所へ申述する法定相続人等への意思表示で足りる

遺贈と死因贈与の手続上の違い

遺言書を用いた遺贈は遺言者の単独の意思で行える行為ですが、死因贈与は財産を贈る人と受け取る人の双方の合意に基づく契約であるという違いがあります。死因贈与は書面がなくても成立しますが、将来のトラブルを防ぐため生前に贈与契約書を作成しておくべきです。どちらも死亡を起因とするため相続税が課税されます。

法定相続人以外が財産を受け取る場合の注意点

法定相続人以外が遺産を受け取る場合、税制面や法務手続の面で不利になるポイントが多数存在します。予期せぬ多額の税負担や親族間の争いを防ぐためにも、遺言書を作成する前に以下の重要な注意点をしっかりと把握しておくことが極めて大切です。

相続税が2割加算されるペナルティ

被相続人の配偶者および一親等の血族(親、子)以外の人が財産を取得した場合、算出された自身の相続税額に対して2割が上乗せされます。遺贈で孫や第三者が財産を受け取る場合は、この2割加算の対象となるため税負担が大幅に増加します。代襲相続人となった孫は例外として加算されません。

基礎控除額の人数に算入されない

相続税には非課税の枠となる基礎控除が設けられています。計算式は「3000万円+600万円×法定相続人の数」です。遺贈を受けた人が法定相続人以外の場合、どれほど多くの財産を受け取ったとしても、この法定相続人の数には含まれないため基礎控除の総額は増えません。

死亡保険金などの非課税枠が適用できない

生命保険の死亡保険金や会社からの死亡退職金には、「500万円×法定相続人の数」という非課税枠が設定されています。しかし、法定相続人以外の人がこれらを受け取った場合、この手厚い非課税枠は一切適用できず、受け取った全額がそのまま相続税の課税対象となります。

💡 プロが教える!実務のワンポイント

教科書的な回答は法定相続人以外は非課税枠を使えないというものですが、税理士の実務では、お孫さんを養子縁組して基礎控除や非課税枠を増やす対策をとるケースがよくあります。ただし、養子縁組をした孫であっても代襲相続でなければ2割加算の対象になるため、事前の緻密なシミュレーションが不可欠と言えます。

相続税の各種税額控除が利用不可

相続税の計算においては、税負担を直接軽減できる控除制度がいくつか存在します。しかし、未成年者控除や障害者控除、相次相続控除といった制度は、法定相続人であることが厳格な要件となっています。法定相続人以外の人が財産を取得しても、これらの控除の恩恵は受けられません。

不動産取得税や登録免許税の負担増

法定相続人が不動産を相続する場合、不動産取得税は非課税となります。しかし、法定相続人以外が特定遺贈によって不動産を取得すると、不動産取得税が課税されます。下表のように名義変更時の登録免許税の税率も大幅に高くなるため、資金計画には十分注意してください。

取得原因登録免許税の税率
相続による取得不動産の固定資産税評価額の1000分の4
遺贈による取得(法定相続人以外)不動産の固定資産税評価額の1000分の20

債務や葬式費用の控除ができないケース

被相続人が残した借金や葬式費用は、原則として遺産総額から差し引くことができます。しかし、特定遺贈によって特定の財産のみを受け取った法定相続人以外の人は、これらのマイナスの財産を控除することが認められていないため、結果的に課税対象となる金額が大きくなります。

遺留分の侵害による親族間トラブル

兄弟姉妹を除く法定相続人には、遺留分と呼ばれる最低限の財産取得割合が法律によって強力に保証されています。法定相続人以外の人に全財産を遺贈するなど、この遺留分を侵害する遺言を残すと、不満を持った親族から遺留分侵害額請求を起こされる危険性が高まります。

💡 プロが教える!実務のワンポイント

特定の人物に多く財産を遺したいという思いから、偏った遺言を作成する方がおられます。しかし当事務所の過去の事例では、遺留分を巡る激しい争いで親族関係が完全に破綻したケースがありました。将来のトラブル回避のため、遺言作成時に遺留分相当の現金をあらかじめ準備しておくのが無難です。

遺言執行者を指定しておく重要性

遺言書で法定相続人以外へ財産を遺贈する場合、必ず遺言執行者を指定しておくべきです。遺言執行者は、単独で預金解約や不動産の名義変更を進める強い権限を持ちます。利害関係者のみで手続を進めると、非協力的な人がいて手続が滞る危険があるため、専門家を指定しておくと安心です。

納税資金の不足に陥る深刻なリスク

遺言書の内容は亡くなるまで秘密にされることが多いため、受遺者はある日突然多額の財産を受け取ることになります。もし不動産など換金しにくい財産ばかりを受け取った場合、相続税を支払うための現金が手元になく、深刻な資金繰り難に陥ってしまうケースが少なくありません。

💡 プロが教える!実務のワンポイント

税理士の実務では、不動産の遺贈を検討されるオーナー経営者に対し、必ず受遺者の納税資金まで考慮した計画を立てます。納税資金が不足すると予想される場合は、不動産と合わせて現金を遺贈するか、生命保険を活用して納税用の現金を確保しておくといった対策を強力に推進します。

遺言書がない場合に財産を渡す手続の流れ

遺言書が一切ない状態から法定相続人以外へ財産を渡す場合、以下の手続を順番に踏む必要があります。時間と手間が非常にかかる大変な作業です。

  1. 法定相続人全員で遺産分割協議を行い財産を相続する
  2. 相続手続を完了し法定相続人の名義に変更する
  3. 法定相続人から目的の第三者へ財産を生前贈与する

この場合、相続税に加えて税率の高い贈与税も課税されることになります。

遺言以外の方法で財産を引き継ぐ選択肢

遺言書による遺贈以外にも、生前贈与や養子縁組を賢く活用して財産を譲る手段があります。被相続人が元気なうちから計画的に対策を進めることで、税負担の軽減や財産承継の円滑化を図ることが十分に可能です。

生前贈与と相続時精算課税制度の活用

生前に財産を渡す場合は原則として贈与税がかかります。しかし、18歳以上の孫などに対して相続時精算課税制度を利用すれば、累計2500万円まで贈与税が非課税になります。最終的に相続時には相続財産に持ち戻されて、相続税の対象として精算される仕組みです。

養子縁組により法定相続人とする

孫などを養子縁組すると、法律上の子として扱われ法定相続人になります。これにより遺産分割協議に堂々と参加できるだけでなく、基礎控除額や非課税枠が増加する大きな利点があります。ただし、他の親族の理解を得てから進めることが円満な整理の前提となります。

その他の制度による財産の移転

遺言書がない場合でも、特定の制度を利用することで法定相続人以外が財産を受け取れる場合があります。生命保険契約の活用や、特別な貢献をした人が正当に請求できる制度など、複数の選択肢を知っておくことで柔軟な対応が可能になります。

特別寄与料と特別縁故者

無償で故人の療養看護に尽力した親族は、特別寄与料を請求できる場合があります。また、法定相続人が誰もいない場合、故人と特別の縁故があった人は特別縁故者として財産分与を申し立てられます。これらによって取得した財産も、遺贈とみなされて相続税が課税されます。

相続税の申告期限と重いペナルティ

相続税の申告と納税の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内と厳格に定められています。法定相続人以外の人が申告を怠った場合、無申告加算税や延滞税といった厳しいペナルティが容赦なく課せられます。金銭一括納付が原則であるため、早めの準備が欠かせません。

法定相続人以外に相続させたい贈与税に関するFAQ

Q1:遺贈の受遺者が先に亡くなった場合はどうなりますか?

遺言書で指定された受遺者が、遺言者よりも先に死亡してしまった場合、その遺贈に関する記述部分は法的に無効となります。代襲相続のように受遺者の子供が代わりに受け取ることはできません。その分の財産は、法定相続人による通常の遺産分割の対象へと戻ります。

Q2:遺言書なしでも法定相続人以外に財産を渡せますか?

遺言書が全くない場合、原則として法定相続人以外に直接財産を渡すことはできません。どうしても渡したい場合は、一度法定相続人が相続手続を済ませてから、その後に目的の人へ贈与する形になります。この場合は相続税と贈与税が二重にかかり、多大な税負担が生じます。

Q3:法定相続人以外が財産を受け取った場合誰が申告しますか?

遺贈などで財産を受け取った本人が、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に自らの責任で相続税の申告と納税を行う義務を負います。たとえ遺言執行者が指定されていても、税務署への申告手続までは代行してくれないため、受遺者自身で速やかに手続を進めなければなりません。

相続の不安は税理士へ相談を

法定相続人以外への財産移転は、税制や法務手続が非常に複雑です。自己判断で進めると、多額の税負担や親族間の深刻なトラブルを招く税務リスクが伴います。会社や家族を守り、安全かつ確実に想いを叶えるため、まずは相続に強い税理士へ早めに相談してください。

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柏原 朋恵

監修者:税理士 柏原

商社での経理実務を経て、会計業界へ転身。税理士法人にて約20年にわたり、中小企業の決算・税務申告から、上場企業の連結納税、SPC業務まで幅広く従事。みつきコンサルティングではオーナー企業の事業承継や相続税・贈与税のアドバイスも提供。本記事では、長年の実務経験に基づき、内容の正確性と専門性を担保するため、専門家の視点から監修を行っている。(税理士登録番号:126165)