相続時精算課税制度と暦年課税の選び方|損をしない税金対策のコツ
生前に子供たちなどに財産を贈与することで、相続税の節税に繋げることができます。今回は「相続時精算課税制度」について説明したいと思います。
暦年課税と相続時精算課税制度 の違いについて
暦年課税と相続時精算課税制度では、条件や贈与税の課税価格から控除される金額など、違う部分がいくつかあるので、それぞれどのようなものかみていきましょう。
<相続時精算課税制度>
・贈与の年の1月1日に60歳以上である親もしくは祖父母が贈与者となり、贈与者の推定相続人になる18歳以上の子供もしくは孫が受贈者となります。
・贈与者ごとに、相続時精算課税に係る基礎控除額110万円、及び特別控除額(限度額2,500万円。前年以前において、既にこの特別控除額を控除している場合は残額が限度額)を超えた分の20%を贈与税として納める必要があります。
・贈与分は贈与者の財産から差し引かれた扱いになりません。
<暦年課税>
・贈与者、受贈者の条件はありません。
・一年間で110万円まで贈与税の課税価格から控除され、超えた分は10%~55%が贈与税となります。
・贈与分は贈与者の財産から差し引かれます。(相続開始前3年(令和6年1月1日以降の贈与については7年)以内に贈与したものに関しては相続税の課税財産の対象になります)
条件や効力に関して、簡単にですが上記に挙げてみました。2つを見比べてみると、かなり内容が違う事が分かります。
相続時精算課税制度のメリット・デメリット
次に相続時制裁課税制度のメリットとデメリットをみていきましょう。
<メリット>
・控除される金額が高く、税率も固定される
相続時精算課税に係る基礎控除額が1年間で110万円、特別控除額2,500万円が贈与税の課税価格から控除され、超えてしまった分には贈与税は発生しますが、税率が20%と固定されています。贈与者が亡くなった時、相続時精算課税を適用した財産を相続財産に加えて、相続税額から過去に収めた相続時精算課税に係る贈与税額を差し引きます。また、納めた贈与税の方が高かった場合は還付金として戻ってきます。
・贈与するタイミングを選べる
価格が時価になるものは、今後どうなるかが読めないために相続時にかなり値上がりする可能性もあります。しかし、価値が低い時に相続時精算課税制度を活用して贈与をすれば、贈与時の価額で財産が評価されるため、結果としてそれが相続税の節税になります。
<デメリット>
・申告する必要がある
特別控除額は贈与税の期限内申告書を提出した場合に限り控除することができます 。申告書、添付する書類などの準備が必要になるので手間がかかります。
・他の特例が受けられなくなる可能性がある
一度相続時精算課税制度を選択すると、選択をした贈与者から贈与を受ける財産についてはすべてこの制度が適用されます。そのため、暦年贈与することができなくなり、その他の特例も使えなくなる可能性があるので注意が必要です。
・暦年課税制度と違い、贈与分がそのまま相続財産の減少にはならない
・孫に相続税が発生する
子供がいる場合は孫に相続権はありませんが、この制度を使った受贈者が孫の場合は孫も相続税を納税する必要があり、この場合の相続税は2割が加算されます。
メリットだけを見ればいい制度といえますが、やはりデメリットもあるので十分注意が必要です。
相続時精算課税制度を利用したあとに当初は想定していなかった状況となるケースも
・養子縁組の解消、相続放棄
相続時精算課税制度利用を使ったあとに養子縁組を解消した場合や相続放棄をした場合も、相続時精算課税制度で受け取った財産には相続税の納付義務が発生します。
・受贈者が先に亡くなった場合や、欠格や廃除で相続権を失った場合
受贈者が先に亡くなった場合、受贈者の相続人(相続時精算課税の贈与者を除く)が権利義務を継承します。 また、欠格や廃除で相続権を失った場合でも、相続時精算課税で取得した財産があれば相続税は課税され、その受贈者に子供がいるなら代襲される可能性があります。
相続時精算課税制度と暦年課税のどちらを利用すればいい?
これについてはケースバイケースなので、一概に「こちらの制度を利用した方がいいです」ということは難しいです。制度を上手く利用できたと思っていても、一つ間違えるだけで贈与者や受贈者の税負担が高くなる恐れがあるので、もし不安ということなら一度専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
もし相談せずに自身で計算し利用したいと考えるのなら、下記の点に少し注意してみて下さい。
・財産に関しての見直し
・相続税がどのくらいかかるのか
相続税には基礎控除があり、課税対象になる財産の金額が基礎控除を下回っているのなら相続税は発生しません。この場合は相続時精算課税制度を使い、財産の贈与をしてもいいと思われます。
もう一点として、取得する財産の金額に応じて変化する相続税の税率にも注意して下さい。相続時精算課税制度の税率は20%で固定となるので、相続税が20%を超える場合は相続時精算課税制度を利用した方が相続税の節税に繋がる可能性が高いといえます。
実用例
相続時精算課税制度については相続時に贈与分は財産から差し引かれませんが、暦年課税での贈与分は財産から差し引かれるため、これらを併用して使うケースがあります。例えば以下の例を見て下さい。
佐藤さん(61歳)は子供が二人いました。
不動産投資を行っており、家賃収入で生活をしていましたが、そろそろ相続の事も気にし始めていました。その時点で不動産の評価額を計算したところ、預金と同程度になりました。相続した際の分割について家族と相談し、長男が不動産管理をすることになりました。
相続税が高くなるかもしれないと危惧していたため、相続時精算課税制度で長男に不動産を贈与、暦年課税で預金を長女に贈与することにしました。
これにより贈与も今のところ上手くできており、佐藤さんの財産も減らすことができました。
最後に
暦年課税では、毎年控除額未満の金額を贈与していても認められない可能性や、財産を減らすには時間がかかってしまうというデメリットがあります。相続時精算課税制度を活用することでまとまった金額が贈与でき、相続税の節税に繋げる事も可能になります。
条件などもあるため、もし興味があるなら専門家に相談することをお勧め致します。