相続時精算課税制度について
生前に子供たちなどに財産を贈与することで、相続税の節税に繋げることができます。財産の贈与にはいくつか種類があり、暦年課税制度や相続時精算課税制度などがあります。その中でも、今回は「相続時精算課税制度」について説明したいと思います。
暦年課税制度や相続時精算課税制度の違いについて
相続時精算課税制度と暦年課税制度では、条件や非課税になる金額など、違う部分がいくつかあるので、それぞれどのようなものかみていきましょう。
<相続時精算課税制度>
・60歳以上の親もしくは祖父母が贈与者となり、受贈者は贈与者の推定相続人になる子供もしくは孫になります。
・2,500万円までは贈与税は非課税となり、超えた分の20%を贈与税として納める必要があります。
・贈与分は贈与者の財産から差し引かれた扱いになりません。
<暦年課税制度>
・対象人の条件はありません。
・一年間で110万円までは贈与税は非課税となり、超えた分は10%~55%が贈与税となります。
・贈与分は贈与者の財産から差し引かれます(相続が発生する前の3年間の贈与は相続財産として扱われる)
条件や効力に関して、簡単にですが上記に挙げてみました。2つを見比べてみると、かなり内容が違う事が分かります。
相続時精算課税制度のメリット・デメリット
条件や非課税になる金額などを上記で説明しましたが、今度はメリットとデメリットをみていきましょう。
<メリット>
・非課税になる金額が高く、税率も固定される
2,500万円が非課税となり、超えてしまった分には贈与税は発生しますが、税率が20%と固定されています。この贈与税は後に相続税が発生した際に充てることができます。また、納めた贈与税の方が高かった場合は還付金として戻ってきます。
・贈与するタイミングを選べる
価格が時価になるものは、今後どうなるかが読めないために相続時にかなり値上がりする可能性もあります。しかし、この制度を活用することで価値が低い時に贈与をすれば、その時の評価で相続税は計算されるため、結果としてそれが相続税の節税になります。
<デメリット>
・申告する必要がある
税務署への申告が必要となるため、添付する書類などの準備が必要なるので手間が少しかかります。
・他の特例が受けられなくなる可能性がある
この申請は撤回ができないため、申請した後は自動的に相続時精算課税制度が適用されます。そのため、同じ受贈者に暦年贈与することができなくなり、その他の特例も使えなくなる可能性があるので注意が必要です。
・暦年課税制度とは違うので贈与分がそのまま相続財産に減少にはならない
・孫に相続税が発生する
子供がいる場合は孫に相続権はありませんが、この制度を使い受贈者が孫の場合は孫も相続税を納税する必要があり、さらに2割増しの相続税になります。
メリットだけを見ればいい制度といえますが、やはりデメリットもあるので少し注意が必要かもしれません。
受贈者に問題があった場合
ここでいう問題というのは、相続時精算課税制度を利用する際というわけではなく、利用したあとに発生する可能性がある問題のことです。ここでは、それらについても説明致します。したいと思います。
・養子縁組を解消した場合や、相続時に相続放棄した場合
養子縁組になることで相続の権利を得ることができます。相続時精算課税制度利用を使ったあとに養子縁組を解消しても相続税を納付する義務は発生します。また、相続放棄の場合でも贈与したとみなされるので、みなし相続税が課税される形になります。
・受贈者が先に亡くなった場合や、欠格や排除で相続権を失った場合
受贈者が先に亡くなったとしても、権利や義務は残るため、他の相続人に規定されている相続分が継承されます。また、欠格や排除で相続権を失った場合でも、制度を利用し得た財産があれば相続税は課税され、その受贈者に子供がいるなら代襲される可能性があります。
相続時精算課税制度と暦年課税制度のどちらを利用すればいい?
これについてはケースバイケースなので、一概に「こちらの制度を利用した方がいいです」ということは難しいです。制度を上手く利用できたと思っていても、一つ間違えるだけで贈与者や受贈者の税負担が高くなる恐れがあるので、もし不安ということなら一度専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
もし相談せずに自身で計算し利用したいと考えるのなら、下記の点に少し注意してみて下さい。
・財産に関しての見直し
・相続税がどのくらいかかるのか
相続税には基礎控除があり、課税対象になる財産の金額が基礎控除を下回っているのなら相続税は発生しません。この場合は相続時精算課税制度を使い、財産の贈与をしてもいいと思われます。
もう一点として、法定相続分の取得に応じて変化する相続税の税率にも注意して下さい。相続時精算課税制度の税率は20%で固定となるので、相続税が20%を超える場合は暦年課税制度を利用した方が相続税の節税に繋がる可能性が高いといえます。
実用例
相続時精算課税制度については相続時に贈与分は財産から差し引かれませんが、暦年課税制度での贈与分は財産から差し引かれるため、これらを併用して使うケースがあります。例えば以下の例を見て下さい。
佐藤さん(61歳)は子供が二人いました。
不動産投資を行っており、家賃収入で生活をしていましたが、そろそろ相続の事も気にし始めていました。不動産の現時点の評価は賃貸の控除などを利用した結果、預金と同じぐらいの評価でした。相続した際の分割については家族と相談したところ、不動産管理をしたいと長男が言ったため、不動産は長男に、預金を長女に与えることになりました。
相続税が高くなるかもしれないと危惧していたため、相続時精算課税制度で長男に贈与、暦年課税で長女に贈与することにしました。
これにより贈与も今のところ上手くできており、佐藤さんの財産も減らすことができました。佐藤さんは長男と同居し、佐藤さんの収入も下げることができ、所得税の節税にもなったそうです。
最後に
暦年課税制度では、毎年控除額未満の金額を贈与していても認められない可能性や、財産を減らすには時間がかかってしまうというデメリットもあります。しかし、相続時精算課税制度ではまとまった金額が贈与でき、贈与税や相続税の節税に繋げる事も可能になります。 条件などもあるため、もし興味があるなら専門家に相談することをお勧め致します。