相続時精算課税制度を使うと生前贈与の税金は本当に安くなりますか?

相続時精算課税制度の仕組みや贈与税と相続税の精算方法、活用の注意点について分かりやすく解説した画像。

相続時精算課税制度は贈与税を抑えられますが将来の相続税と一体で精算する仕組みです。

60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫へ財産を贈与する際、累計2,500万円の特別控除と年110万円の基礎控除が使えます(相続税法第21条の9、相続税法第21条の12)。贈与時の税負担を大幅に減らせる一方、贈与者が亡くなった際には贈与財産(2024年以降の贈与は年110万円の基礎控除分を除く)を相続財産に加えて相続税を計算します。将来の相続税も含めた総額で節税になるかを見極めることが重要です

相続時精算課税制度は、生前贈与時の税負担を軽減しながら世代間の資産移転を促すために設けられた制度です。制度の基本的な仕組みや対象者、2024年の改正内容を順番に解説します。

相続時精算課税制度の基本ルールと対象者

本制度を利用するには、贈与する人と受け取る人の双方が法律で定められた条件を満たす必要があります。対象範囲や要件を正確に把握しましょう。

制度を利用できる人の範囲と年齢要件

贈与者は贈与をした年の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母などです(国税庁タックスアンサーNo.4103)。受贈者は贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の子や孫(孫は推定相続人でなくても対象)とされています。通常の贈与では、叔父や叔母からの贈与には適用できません。

💡 プロが教える!実務のワンポイント

贈与者が60歳未満の場合は原則として本制度を選べません(住宅取得等資金の贈与には例外があります)。ただし「非上場株式等についての贈与税の納税猶予(租税特別措置法第70条の7の5)」等の特例を使う場合は、贈与者が60歳以上で受贈者が18歳以上であれば、推定相続人以外の人でも適用できます。

対象となる贈与財産の種類と金額制限

本制度で贈与できる財産の種類に制限はありません。現金や預貯金だけでなく、不動産や株式、事業用資産なども対象となります。また、1年間の贈与金額や贈与の回数にも制限はなく、必要に応じて何度でも活用できます(相続税法第21条の9)。

贈与者ごとに選択できる基本構造

相続時精算課税制度は贈与者ごとに選択の有無を決定できます。例えば、父親からの贈与には本制度を適用し、母親からの贈与には通常の暦年課税(年間110万円の非課税枠)を適用するという使い分けが認められています(相続税法第21条の9)。

2024年1月税制改正による新たな非課税枠

2024年1月1日以降の贈与から、相続時精算課税制度の使い勝手が大きく向上しました。税制改正による重要な変更点を確認しましょう。

年間110万円の基礎控除の創設

改正により、本制度にも年間110万円の基礎控除が創設されました(相続税法第21条の11の2)。年110万円までの贈与であれば贈与税がかからず、後述する2,500万円の特別控除枠を消費することもありません。少額の贈与を積み重ねる際にも有効な仕組みです。

累計2,500万円の特別控除と超えた場合の税率

基礎控除を超えた金額については、期限内に申告すれば累計2,500万円まで贈与税がかからない特別控除が適用されます(相続税法第21条の12)。複数年にわたる贈与の合計額でカウントし、2,500万円を超えた部分に対しては一律20%の税率で贈与税が課されます。

基礎控除内贈与における持ち戻しの免除

2024年以降に年110万円の基礎控除内で贈与された財産は、将来の相続発生時に相続財産へ加算(持ち戻し)されません。贈与税が非課税になるだけでなく、相続税の課税対象からも完全に除外される大きなメリットがあります(相続税法第21条の15)。

💡 プロが教える!実務のワンポイント

同一年中に2人以上の特定贈与者から本制度で贈与を受けた場合、年110万円の基礎控除額は各贈与者からの課税価格であん分して計算します(国税庁タックスアンサーNo.4410)。1人あたり110万円ずつ控除できるわけではない点に注意が必要です。

暦年課税と相続時精算課税の徹底比較

贈与税の課税方式には、一般的な暦年課税と相続時精算課税の2つの選択肢が存在します。制度の骨組みや税額計算の仕組みには明確な違いがあります。

項目暦年課税相続時精算課税
基礎控除枠年110万円年110万円(2024年以降)
特別控除枠なし累計2,500万円
超過分の税率累進税率(10%〜55%)一律20%
相続財産への加算亡くなる前3〜7年分(段階的に延長)基礎控除を超える贈与分すべて
適用対象年齢制限なし贈与者60歳以上・受贈者18歳以上
選択後の変更他の方式へ変更可能撤回・変更不可(暦年課税に戻れない)

💡 プロが教える!実務のワンポイント

暦年課税の相続前加算(持ち戻し)期間は、2024年以降の改正で従来の3年から段階的に最長7年へ延長されます。一方、相続時精算課税は基礎控除110万円分が加算対象外となるため、年間110万円以下の継続贈与では本制度の方が有利になるケースが増えています。

相続時精算課税制度を活用する主なメリット

相続時精算課税制度には、暦年課税にはない独自の強みがあります。効果的に活用できる3つの代表的なメリットを説明します。

まとまった資産を早期に生前贈与できる

累計2,500万円の特別控除を活用すれば、一度にまとまった額の財産を非課税で贈与できます。子や孫の結婚、子育て、住宅取得、事業資金の援助など、資金を早期に渡して有効活用させたい場合に非常に適しています。

将来値上がりが見込まれる財産の節税対策

相続発生時に合算される贈与財産の価値は「贈与時の時価」で固定されます(相続税法第21条の15)。将来値上がりが見込まれる株式や開発予定地の不動産などを事前に贈与しておけば、値上がり後の評価額ではなく、贈与時の低い評価額で相続税を計算できるため節税になります。

収益不動産からの家賃収入を将来の相続財産から除外

賃貸アパートなどの収益不動産を早期に贈与すると、贈与後に発生する賃料収入はすべて受贈者の資産になります。親の元に現金が貯まり続けて相続財産が膨らむのを防ぎ、子の資金力を高める二重の効果が期待できます。

💡 プロが教える!実務のワンポイント

値下がりリスクのある財産を贈与する際は慎重な判断が必要です。贈与後に株式や不動産の時価が下落しても、相続税は「贈与時の高かった時価」で計算されるため、結果として税負担が重くなる境界線が存在します。

知っておくべき4つのデメリットと注意点

メリットが多い反面、一度選択すると取り消せないなどの重大な注意点も存在します。契約前に必ず確認すべきデメリットを解説します。

一度選択すると暦年課税に戻せない

本制度の届出を提出すると、選択した特定贈与者からの贈与については生涯暦年課税へ戻すことができません(相続税法第21条の9)。暦年課税による贈与はできなくなりますが、本制度でも年110万円の基礎控除は使えます。

相続税そのものが免除される制度ではない

2,500万円の特別控除は「贈与税を一時的にかからなくする」仕組みであり、相続税を免除するわけではありません。基礎控除を超えた贈与財産は、贈与者が亡くなった際にすべて相続財産へ足し戻されて相続税が計算されます(相続税法第21条の15)。

不動産贈与において登録免許税や不動産取得税がかかる

不動産を生前贈与する場合、名義変更の手続きコストが高くなります。名義変更時の登録免許税は固定資産税評価額の2.0%であり、相続時の0.4%より高額です。さらに相続では発生しない不動産取得税(土地・住宅は3.0%、住宅以外の建物は4.0%)が課されます。

小規模宅地等の特例が適用不可になる

宅地の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例(租税特別措置法第69条の4)」は、相続や遺贈で取得した土地が対象です。本制度で生前贈与された土地には適用できないため、自宅等の土地を贈与すると将来の税負担が大きく跳ね上がるおそれがあります。

💡 プロが教える!実務のワンポイント

生前贈与で取得した土地建物が災害により甚大な被害を受けた場合、被害額に応じて相続財産への加算額を減らせる「相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例」が2024年から適用されています(租税特別措置法第70条の3の3)。原則として災害発生から3年以内に税務署への申請と承認が必要なため、被災状況や写真などの資料を保管しておきましょう。

手続きの流れと必要な添付書類

相続時精算課税制度の適用を受けるためには、決められた期間内に正確な申告手続きを行う必要があります。初年度と2年目以降の手続きの違いを整理します。

初回適用時の手続きと申告期限

制度を初めて利用する際は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を提出します(相続税法第21条の9)。受贈者の戸籍謄本など、年齢や親子関係を証明する書類を添えて所轄税務署へ提出します。

2年目以降の申告要否と判断基準

2024年以降の贈与では、2年目以降に受けた贈与が年110万円以内であれば贈与税の申告は不要です。年110万円を超える贈与を受けた場合のみ、翌年2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告書を提出します。

書類の提出方法と手続きの手段

申告書や選択届出書の提出方法には、税務署の窓口へ持参するほか、郵便による送付、国税電子申告・納税システム(e-Tax)を利用する方法があります。e-Taxを利用すると添付書類の一部提出を省略できます。

💡 プロが教える!実務のワンポイント

選択届出書を申告期限(3月15日)までに提出しなかった場合、その年の贈与には暦年課税が適用されます。期限を1日でも過ぎると遡って制度を選択することはできず、高額な贈与税や無申告加算税が課されるリスクがあります。

相続時精算課税制度に関するFAQ

Q1:親から1,000万円の贈与を受けたら税金はいくらになりますか?

2026年時点の税制では、年110万円の基礎控除を引いた890万円が特別控除(累計2,500万円)の範囲内となるため、贈与税は0円です。ただし親が亡くなった際、890万円を相続財産に加えて相続税を計算します(相続税法第21条の11の2、相続税法第21条の12)。

Q2:孫への贈与でも相続時精算課税制度を使えますか?

贈与者の直系卑属である18歳以上の孫であれば利用できます(国税庁タックスアンサーNo.4103)。ただし代襲相続人でない孫が財産を取得した場合、将来の相続税額が2割加算される点に気をつける必要があります(相続税法第18条)。

Q3:申告を忘れて期限を過ぎてしまった場合はどうなりますか?

申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」を提出しなかった場合、制度の適用は認められません(相続税法第21条の9)。暦年課税が適用され、無申告加算税や延滞税などのペナルティが発生する可能性があります。

Q4:基礎控除110万円以下の贈与でも届出書の提出は必要ですか?

制度の適用を受ける最初の年については、贈与額が110万円以下であっても「相続時精算課税選択届出書」の提出が必要です。2年目以降で年110万円以下であれば申告や届出は不要となります(相続税法第21条の9)。

Q5:住宅取得資金の贈与と併用することはできますか?

住宅取得等資金の贈与税の非課税特例と本制度は併用可能です(国税庁タックスアンサーNo.4506)。

相続の不安は税理士へ相談を

相続時精算課税制度は贈与時の税金を抑えられますが、将来の相続税額や不動産の諸費用を含めた総合的な判断が必要です。一度選択すると暦年課税に戻せないため、自己判断で手続きを進めると税負担が増すリスクがあります。家族の財産状況に応じた最適なシミュレーションを行うため、まずは相続に詳しい税理士へ相談しましょう。

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柏原 朋恵

監修者:税理士 柏原

商社での経理実務を経て、会計業界へ転身。税理士法人にて約20年にわたり、中小企業の決算・税務申告から、上場企業の連結納税、SPC業務まで幅広く従事。みつきコンサルティングではオーナー企業の事業承継や相続税・贈与税のアドバイスも提供。本記事では、長年の実務経験に基づき、内容の正確性と専門性を担保するため、専門家の視点から監修を行っている。(税理士登録番号:126165)