相続人に認知症の人がいるとき後見人を立てないと手続きできませんか?
認知症の相続人がいても必ず成年後見人が必要なわけではなく、本人の判断能力によって法定後見制度の利用が必要になることがあります。
認知症などで遺産分割協議の内容を理解して判断できる意思能力を欠く相続人がいる場合、そのままでは有効な遺産分割協議を成立させることができません。その場合は、判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助などの法定後見制度を利用するなどの対応が必要です。
相続手続きで後見制度が必要となる基本的な理由
遺産分割協議は相続人全員の合意によって成立する法律行為です。民法第907条に基づき行われますが、意思能力を欠く状態での意思表示は民法第3条の2により法律上無効となります。本人が有効に協議できない場合は、判断能力の程度に応じて法定後見制度を利用するなどの対応が必要です。
成年後見制度の全体像と概要の一覧
成年後見制度には本人の判断能力の程度に応じた区分が存在します。健常なうちに契約する任意後見や家族信託との違いも含め、各制度の特徴や適用場面を区分して整理します。
| 制度名称 | 対象となる判断能力 | 開始する時期 | 主な特徴と注意点 |
|---|---|---|---|
| 法定後見(後見) | 欠けているのが通常 | 判断能力低下後 | 家庭裁判所が選任。財産に関する法律行為を代理。原則死亡まで継続 |
| 法定後見(保佐) | 著しく不十分 | 判断能力低下後 | 重要な法律行為に保佐人の同意が必要 |
| 法定後見(補助) | 不十分 | 判断能力低下後 | 特定の法律行為について同意権や代理権を付与 |
| 任意後見 | 十分(健常時) | 将来の低下後 | 本人があらかじめ契約で指定。任意後見監督人が就任 |
| 家族信託 | 十分(健常時) | 契約成立時 | 裁判所を介さず家族間で財産管理を委託 |
遺産分割協議において法定後見制度の利用が必要となる具体的なケース
相続手続きにおいて、法定後見制度の利用が必要となる主な場面は2つ存在します。
遺言書がなく相続人全員での協議が必要なとき
被相続人が遺言書を残しておらず、遺産分割協議を行う場合は、相続人全員の有効な合意が必要です。遺産分割の内容を理解して判断できる意思能力を欠く相続人がいる場合は、そのままでは有効な協議を成立させることができないため、判断能力の程度に応じて法定後見制度を利用するなどの対応が必要となります。
相続財産である不動産の売却や預貯金の解約を行うとき
相続財産に含まれる不動産の売却や銀行口座の解約について、相続人全員の合意が必要な手続きを行う場合は、意思能力を欠く相続人本人の有効な同意を得ることができません。そのため、必要に応じて法定後見制度を利用し、権限を与えられた後見人等が本人に代わって手続きを行います。なお、預貯金については、遺産分割前でも一定額を相続人が単独で払い戻せる制度があります。
💡 プロが教える!実務のワンポイント
成年後見人と本人が共同相続人として遺産分割協議を行う場合、利益相反が生じます。利益相反となる成年後見人は本人の代理人として協議に参加できません。この場合は家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てるか、成年後見監督人が選任されている場合は監督人が代理を務めます。
後見人を立てずに相続手続きを進められる例外的なケース
一定の条件を満たす場合は、後見人を選任せずに相続手続きを完了できる場合があります。
有効な遺言書が存在しており遺産分割協議が不要な場合
被相続人が生前に遺言書を作成していた場合、原則として遺言書の内容に従って財産が分配されます。相続人同士での遺産分割協議が不要となるため、遺産分割協議のために後見人を立てる必要はありません(本人による財産の受領や管理など、別の手続で必要になる場合があります)。
法定相続分通りの共有名義で不動産の相続登記を行う場合
遺産分割協議を行わず、民法第900条に定める法定相続分の割合通りに不動産を共有名義へ登記する場合は後見人が不要です。共有での保存行為として相続人の1人から申請が可能ですが、将来の売却や管理に制約が出る点に注意が必要です。
後見制度の利用手続きと発生する主な費用
後見人を選任するための申立て手続きと、必要となる費用の内訳について説明します。
家庭裁判所への申立てから後見開始までの流れと所要期間
申立ては本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ行います。申立てから法定後見の開始までは、多くの場合4ヶ月以内ですが、鑑定や候補者の調査などで長くなることがあります。家事事件手続法に基づく審理を経て確定するため、即日の選任はできません。
初期費用と専門家後見人へ支払う報酬
後見開始の申立手数料は収入印紙800円、後見登記手数料は2,600円です(保佐・補助で代理権や同意権の付与などを申し立てる場合は、別途申立手数料が必要です)。そのほか連絡用の郵便料が必要で、鑑定が行われる場合は別途鑑定料がかかります。専門職後見人等の報酬は、報酬付与の申立てを受けて、家庭裁判所が後見等事務の内容などを考慮して個別に決定します。
💡 プロが教える!実務のワンポイント
家事事件手続法第121条の規定により、家庭裁判所へ後見申立書を提出した後は、裁判所の許可がない限り申立てを取り下げることができません。候補者以外の専門職が選任されそうであることを理由とした取り下げは原則認められないため、申立て前に慎重な検討が必要です。
相続で後見制度を利用する際に把握すべき重要な注意点
制度利用の開始後に生じる法的な制約や実務上の留意点について解説します。
後見開始後は原則として本人が亡くなるまで制度が継続する点
遺産分割協議の完了だけを理由として後見人を解任することはできません。本人の判断能力が回復するか、死亡するまで制度は継続します。専門職後見人が選任されている間は、家庭裁判所が報酬付与を認めた場合、本人の財産から報酬が支払われます。
生前贈与や生命保険加入など相続税対策が著しく制限される点
成年後見人は本人の意思を尊重し、本人の利益のために財産を管理する必要があります。相続税の節税を目的として本人の財産を減らす生前贈与は、原則として認められません。生命保険の契約は本人の利益になるかどうかを踏まえて判断する必要があります。養子縁組は、後見人が本人に代わって行うことはできません。
親族が後見人候補者になっても第三者専門家が選任される可能性
申立書で親族を候補者に指定した場合でも、家庭裁判所が適任者を判断します。本人が必要とする支援の内容や親族間の意見の対立など、事案によっては司法書士や弁護士などの第三者専門職が選任されることがあります。
💡 プロが教える!実務のワンポイント
遺言は本人が遺言をする時に遺言能力を有している必要があり、後見人が本人に代わって作成することはできません。成年被後見人が判断能力を一時的に回復した状態で遺言をする場合は、民法第973条により医師2人以上の立会いが必要です。
後見と相続に関するFAQ
後見申立てにかかる印紙代や鑑定費用などの手続費用は、原則として申立人が負担します(家庭裁判所の判断で本人負担となる場合があります)。専門職後見人の報酬は、家庭裁判所が報酬付与を認めた場合に本人(被後見人)の財産から支払います。費用負担が難しい場合、弁護士等への依頼費用について法テラスの民事法律扶助を利用できる場合があり、自治体の成年後見制度利用支援事業の助成対象となる場合もあります。
被相続人が作成した有効な遺言書が存在し、すべての遺産分配方法が指定されている場合は、相続人全員による遺産分割協議が不要となります。そのため、遺産分割協議のために後見人を選任する必要はありません。ただし、認知症の相続人本人による財産の受領や管理などが必要な場合は、別途後見制度の利用が必要になることがあります。遺言書に記載のない財産について遺産分割協議を行う場合も、別途後見制度の利用が必要になることがあります。
親族が成年後見人に就任した場合、家庭裁判所へ「報酬付与の申立て」を行わない限り報酬は発生しません。無報酬で後見事務を行うことが可能です。ただし、家庭裁判所から「成年後見監督人」が選任され、監督人が報酬付与の申立てをして家庭裁判所が報酬を認めた場合は、本人の財産から監督人報酬が支払われます。
本人が所有する居住用不動産を売却する場合、民法第859条の3の規定により家庭裁判所の許可が必要です。施設入居資金の確保など本人の生活や介護のために売却する場合も、処分の必要性や本人の意向、売却条件などを踏まえて家庭裁判所が許可するかどうかを判断します。本人の利益にならない売却は認められません。
相続の不安は税理士へ相談を
相続人の中に判断能力が不十分な方がいる場合、遺産分割協議や手続きの進め方によって将来的な税務リスクが生じるおそれがあります。自己判断で手続きを放置すると無申告加算税などのペナルティを受ける危険があります。円滑な相続手続きと適正な申告を行うため、お早めに相続専門の税理士へご相談ください。
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