新生銀行が取り組む事業承継問題における新たな一手「廃業支援型バイアウト®」とは 新生銀行が取り組む事業承継問題における新たな一手「廃業支援型バイアウト®」とは

廃業支援型バイアウト®の実例紹介

舛井氏 廃業支援型バイアウト®として実施した2つの事例がありますので、ご紹介させていただきます。

まず、建築資材卸売業の事例をご紹介します。業歴80年ほどの老舗の会社で、私たちがお会いしたのは3代目の方。社長を引き継いでから20年程度経過しているというオーナーでした。過去には多くの従業員の方がいらっしゃったようですが、私たちに相談があった時点では従業員は10名強でした。近時は本業赤字が続いており、収益不動産による収入で、収支トントンといった状況でした。過去様々な施策を行ってきましたが業績はなかなか改善せず、やれることはやり尽くしたとの考えから、会社を売却するか或いは廃業も最悪やむを得ないと考えるまでに至ったそうです。

実際に、専門家に相談して会社売却を進めたそうですが、なかなか買い手が見つからず、私たちに相談が持ち込まれました。調査をおこなったところ、事業は赤字であるため、価値を見込みづらいものの、2つの不動産を保有しており、資産価値は相応にあるものと判断しました。

そこで、私たちはオーナーとお話しまして、「一定期間事業譲渡の可能性を探しますが、もし買い手が見つからなければ廃業することになります。それでよろしいでしょうか」と確認し、了承をいただいた上で、検討を進めました。

株式の購入にあたっては、私たちは銀行グループであることから、100%事業会社の株式を保有することは出来ませんが、第三者のパートナーと作った投資事業有限責任組合が会社の株式を取得しています。

実際に買った後どうなったかということですけれども、まずは3か月程度期間を定め、同業者を中心に事業譲渡の可能性を探りました。アドバイザーを経由し、50社程度にお声がけしたところ、1社だけ手を挙げていただけたのです。手を挙げていただいたのは、地方の会社で、東京進出の足掛かりとして商権と従業員を引き継いでいただきました。この会社を丸ごと買おうとすると、不動産の価値も含めて資金が必要になるところ、事業のみを切り出したことで小さな資金で商権を手に入れることができた点は、買い手の会社にとってもメリットだったと思います。

投資ストラクチャー

私たちとしても、赤字と見積もっていた事業部分が少しでもプラスになり、そして何よりも全従業員の方が新会社に引き継がれたのは意義があることでした。

また、この案件では、複数の金融機関からの借入が残っていましたが、金融機関によって個人保証の解除について、対応が異なりました。場合によっては、私たちが金融機関からの借入を肩代わりし、個人保証を外すということまで検討していましたが、保証解除にご協力いただけた金融機関がその他の借入を肩代わりしてくれたため、無事に個人保証を外すことが出来ました。

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最終的にこの会社はどのような状態になったかというと、収益不動産を売却した時点で、銀行借入を返済し、様々な資産を処分して、最終的に新会社がテナントとして入っている本社不動産を保有するだけになった会社を、そのまま会社ごと売却し、この案件は無事完了いたしました。

オーナーはまだ50代の方ですが、振り返ってみるとデューデリジェンスが、非常に大変であったとおっしゃっていました。従業員の方に知られないように、皆さんが帰った後の夜中や週末に、私たちに提出する膨大な資料の準備を全ておひとりで対応されていたということでして、もう少し相談するタイミングが遅ければ、それすらなかなか難しかったかもしれないとおっしゃっていました。

平川氏 この場合、従業員の退職金などはどうされたのでしょうか。元の会社でそこまでは払ったのですか?

舛井氏 そうですね、事業譲渡なので、元の会社で一旦支払っています。新しいところにはまたゼロからのスタートとなっています。

舛井氏 では、もうひとつの事例です。業歴50年程度のアパレル卸売・小売・企画など3社で構成される会社です。全国に数十店舗保有しており、従業員はパートの方を含めると200名以上という、規模が比較的大きな会社になります。 こちらの会社は、創業者の方が亡くなられて配偶者の方とお子様が会社を引き継がれていましたが、2期連続赤字となったことから、自力での業績改善は難しいとの判断に至り、初めは第三者への会社売却を検討していたそうです。 赤字であることから買い手がつかず、自主廃業もやむを得ないかという段階で、私たちに相談がありました。

元々、私たちが投資するか否かにかかわらず、赤字の店舗は閉めていくリストラクチャリングを進める方針であったことから、私たちが投資させていただいた後、半年かけて赤字店舗の整理を進めていきました。最終的に20店舗ほどの黒字の店舗だけの会社になった段階で、どなたか事業を引き継いでくれる方が見つからないかと考えたわけです。そこへ、従業員の方が手をあげてくれたことから、その方にEBOという形で、小売会社の株式を譲渡させていただきました。店舗閉鎖に伴ってどうしても発生してしまう退職者に対しては、再就職支援制度を導入することに加え、退職金を上積みすることでご理解を得るようにしました。

また、こちらの事案では、私たちにご相談をいただけるまでの間に、顧問会計士の先生がオーナーへのアドバイス、会社ご売却を決断するまでの肩をおしていただけたことが、結果として、オーナーがご決断できたことに繋がったということがあります。

平川氏 これはどのくらいの期間で完了したのですか?

舛井氏 全部終わるまで1年くらいです。一つ目の事例は、投資してから終わるまで9か月でした。

平川氏 そんな短い期間でできるのですね。

舛井氏 ええ、そのくらいのスピードでないとダメなのです。結局この投資は、会社の事業価値をバリューアップできるわけでなくて、今ある資産の価値の中で利益を確保しないといけないので。

平川氏 時間がたつと減耗してしまう可能性がありますね。

舛井氏 そういうことになります。

平川氏 実施にあたって、新生銀行さんが買う段階では、廃業も視野に入れているという話は、ある程度社員の方にも伝わっているってケースもあるんでしょうか。

投資ストラクチャー

舛井氏 ケースバイケースでして、最初の事例はまさにどちらに転ぶか分からないというものでした。信頼できる第三者の方に代表として入っていただいて、事業譲渡の可能性を探る3ヵ月の間、社員のモチベーションを下げるわけにもいかないけれども、誰も買い手がいなかったら廃業しなければいけないのであまり期待させ過ぎてもいけないという、きわめて難しいかじ取りをお願いしました。

平川氏 私も廃業などをお手伝いする中で難しいと感じているのが、経営者の方が廃業の意思決定をしてしまうと、それが表立って言わなくても社員に何となく伝わって、物凄くモチベーション下がってしまうんですよね。そうすると、一部の事業売却という話もなかなか難しくなって負の連鎖が起きてしまうわけです。

舛井氏 そうですね。その点、この前者の建築資材卸の事案は気を遣いました。後者のアパレルの事案は、店舗を閉めるというのは既に方向性として出ていましたし、業界的に企画や仕入のタイミングが早いのでそれをしないということは早々に結論が出ているようなものでして、こちらもモチベーションを維持するのは結構難しいことでした。

平川氏 そういう意味でも、確かにスピード感をもってやらないと、若くて優秀な社員ほど辞めていってしまいますからね。

舛井氏 そこも大変気にする部分です。ですので、なるべくスピーディーに進めています。